映画「正欲」は、一見すると特異なフェチを持つ人々の物語に映るかもしれません。しかし、その奥深くには、私たちが普段考えもしないような「生きづらさ」と「自己認識」の問題が潜んでいます。この作品では、主人公・桐生夏月（演：新垣結衣）が水に対して性的に欲情するという、一般には理解されにくい特殊な性癖を抱えています。しかし、この性癖は、彼女が直面している「生きづらさ」の象徴として機能しており、自分の本音を正直に表現できない社会の現実を浮き彫りにしています。
「正欲」という作品のタイトルには、私たちが持つ根源的な欲求、すなわち「自分の考えが正しいと思いたい」という思いが込められています。この映画は、マイノリティとマジョリティの間の「正しさ」に関する衝突を描きながら、個人の自由と社会の規範というテーマを掘り下げていきます。
特に印象的なのは、主人公たちが水に対して抱く欲情です。水という自然界の要素が、彼らにとっては自由の象徴、そして「自分もそうありたい」という憧れを表しています。水のように、形を自由に変え、どんな環境にも適応し、束縛されない生き方への渇望を、彼らは水への欲情という形で表現しています。
一方、寺井啓喜（演：稲垣五郎）のキャラクターは、社会の集合的な意識、いわば「大衆の正しさ」を追求する存在として描かれています。彼の物語は、社会が個人に強制する「正しい」とされる枠組みの中で生きることの難しさと葛藤を示しています。
この映画が私たちに問いかけるのは、本当の「自由」や「正しさ」とは何か、そして私たちはどのようにして自分自身のアイデンティティを見つけ、社会の中で生きていくのか、ということです。特に、桐生夏月と寺井啓喜の再会シーンは、映画のメッセージを強く印象付けるものであり、マイノリティとマジョリティの間の「愛」と「罰」の対比が、観客に深い印象を残します。
映画「正欲」は、ただのエンターテイメントとしてではなく、私たち自身の生き方や社会の在り方について深く考えさせられる作品です。その特異なテーマを通じて、普遍的な問題に光を当て、観る者に多様な視点から世界を見る機会を与えてくれます。
